胃カメラ・大腸カメラの「鎮静」ってなあに?
こんにちは。今回も医療知識のブログ2回目、となりました。クリニックをご利用いただく皆様の不安・心配を解決するためにも、少しずつブログは更新してまいります!どうぞお付き合いくださいね😊
今回は皆様からもよく質問をいただく、「鎮静剤」についてのお話です。
1. 「内視鏡検査はつらい」というイメージがありませんか?
「以前、胃カメラがとても苦しかった」
「大腸カメラは痛いと聞いて不安になってしまう」
診察の中で、このような声を聞くことは少なくありません。
内視鏡検査は、病気の早期発見にとても重要な検査である一方、“つらい” “怖い” “大変”というイメージが先行しやすい傾向もあります。
症状が軽いうちは
「もうちょっとだけ様子を見よう。」
「悪くなったら考えよう」
「忙しいからまた今度」
と自分のことを後回しにしまいがちです。
しかし現在では、鎮静剤(いわゆる眠り薬)を用いることで、検査の負担を大きく軽減できる方法が確立されています。
今回は、内視鏡検査における鎮静の基本と、近年新たに使用できるようになった**アネレム®**について、ご説明します。
2. そもそも「鎮静」とは何をすること?
内視鏡検査で行う鎮静とは、点滴から薬を投与し、
うとうと眠っているような、リラックスした状態の中、内視鏡検査を受けていただく方法です。
麻酔の中でも、外科手術の時に用いるような「全身麻酔」とは異なり、
・自分で呼吸ができる
・必要に応じて声かけに反応できる
・検査後は徐々に目が覚める
といった特徴があります。
鎮静剤を使用された方の多くが
「検査中の記憶がほとんどない」
「いつの間にか、リカバリー室に移動していた。」
「先生が来たのが覚えていない」
と話されます。
“完全に意識を失う”わけではないが、苦痛を感じにくい状態を作る
それが内視鏡検査における鎮静です。しかし、この薬剤の効き方にも個人差が出るのも事実です。
3. なぜ鎮静を使うと検査が楽になるの?

胃カメラの場合
胃カメラでは、喉にカメラが触れることで「オエッ」となる反射(嘔吐反射)が起こりやすくなります。
鎮静を行うことで、
・喉の違和感を感じにくくなる
・喉への力が入りにくくなり、カメラが通りやすくなる
・呼吸が落ち着いて、カメラの操作が安定しやすい
といった効果が期待できます。
大腸カメラの場合
大腸カメラでは、腸が伸ばされることによる張りや痛みが問題になります。
鎮静により、
・腹部の緊張が取れ、腹壁の圧迫でカメラが入りやすくなる
・腸の動きが抑えられ、カメラがスムーズに挿入しやすくなる
・検査中の体勢変換の際にも負担が少ない
といったメリットがあります。
結果として、検査を受ける患者さんの負担が減るだけでなく、より丁寧な観察につながることもあります。
4. 鎮静に使われる薬剤の種類と進歩

これまで内視鏡検査では、主にベンゾジアゼピン系薬剤(セルシン®︎、ミダゾラム®︎)や、プロポフォールなどの薬剤が用いられてきました。
これらは長年の使用実績があり、現在も多くの施設で使用されています。
そして2025年6月からは、**アネレム®(一般名:レミマゾラム)**という新しい鎮静剤が、内視鏡検査に対しても使用できる薬剤として適応が追加されました。
5. アネレム®とはどんな鎮静剤?

アネレム®は、効果が出るまでの時間が比較的早く、体からの代謝・消失が早いという特徴を持つ薬剤です。
このため、
・鎮静の効き方を医療者側で調整しやすい
・検査後の覚醒が比較的スムーズになる
・検査後のふらつきが長引きにくく、転倒のリスクが軽減される
・効果が強く出た場合に、それを拮抗するための薬が存在する
といった点が特徴として挙げられます。
特に、高齢の方や、検査後の回復を重視したい方においては、
状態を見ながら慎重に使用しやすい選択肢の一つと考えられています。
もちろん、どの鎮静剤にも共通して、
・年齢
・体格
・心臓や肺のご病気
・普段内服しているお薬
などを十分に考慮する必要があります。
また、お薬の使用によって眼圧が上がるという副作用もあるため、緑内障(特に、閉塞隅角緑内障)の患者さんに使用をすることができません。
6. 鎮静は安全なの?注意点は?
鎮静を行う際には、検査中に
・血圧、脈拍
・酸素飽和度(呼吸の状態)
・麻酔の深さ
などを確認しながら、安全管理を行います。
一方で、
・検査後に眠気が残る
ことがある
・翌日の朝まで車や自転車の運転ができない
・重要な判断を伴うような仕事は避けていただく
といった注意点があります。
事前説明と薬剤使用においては同意が必要となります。検査後には 30分- 1時間程度の休息時間の確保も必要です。
Q & A

Q1. アネレムなどの鎮静剤を使えば誰でも必ず楽になりますか?
A1.
効果には個人差があり、薬の効きやすさは予測が難しいです。検査の際には実際に状態を見ながら、必要に応じて調整して投与をします。
Q2. 鎮静剤は毎回同じもの、みんな一定の投与量を使うのですか?
A2.
個人によって投与量は異なります。併存疾患の有無や検査経験、当日の体調を踏まえて薬剤や投与量を検討します。
Q3. 鎮静を使わずに検査を受けることもできますか?
A3.
もちろん可能です。ご希望や不安を伺ったうえで、方法を一緒に決めていきます。
鎮静剤を使わない場合には、画面を一緒に見ながら検査を受けられます。
経鼻の胃カメラや大腸カメラの場合、何か気になることがあれば多少の会話をすることもできます。
最後に
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
私たちのクリニック皆で、内視鏡検査が「我慢する検査」とならないように、少しでも検査を受けられる方の負担を取りたいと考えております。
現在は、内視鏡検査はできるだけ負担を減らし、安心して受けていただく検査へと進化しています。
鎮静剤にはいくつかの選択肢があり、その一つとしてアネレム®が加わりました。
不安や疑問があれば、まずはお気軽にご相談ください。
少しでも皆さんの検査の負担が取れれば、と思っております。
参考文献
・内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版) 日本消化器内視鏡学会雑誌
・Sedation for routine gastrointestinal endoscopic procedures: a review on efficacy, safety, efficiency, cost and satisfaction
Intest Res 2017;15(4):456-466
・消化器内視鏡関連の偶発症に関する第 7 回全国調査報告 2019~2021 年までの 3 年間 日本消化器内視鏡学会


